下水道事業へのコンセッション導入について

 全国的に少子高齢化・人口減少が進む中、特に地方の自治体では、職員数の減少、老朽化施設の急増、厳しい経営環境という「人」「モノ」「カネ」の問題が深刻化してきています。その中でも特に持続困難な事業の一つとして、下水道事業がよく挙げられます。
 このような状況への解決策のひとつとして、昨今、民間企業のノウハウや創意工夫を活用するための官民連携が注目を浴びており、特に有名なものの一つとして、「コンセッション」があります。
 コンセッション方式とは、施設の所有権を自治体に残したまま、一定期間、施設整備や公共サービスの提供などの事業運営権を民間企業に売却する仕組みで、兵庫県では神戸空港の事例がよく知られています。国土交通省の調べによると、コンセッションを含む官民連携の2017年3月末時点での累積契約数は全国で609件、累積契約金額は約5.5兆円に達しています。
 下水道事業にもこのコンセッションを広げようと、国土交通省としても、「下水道における新たなPPP/PFI事業の促進に向けた検討会」に「民間セクター分科会」を新たに設置し、自治体への技術的・財政的支援を始めたところです。
 下水道事業においては、浜松市が日本初の下水道コンセッション導入に取り組んでいます。処理水量が20万m3/dと、浜松市全体の処理量の約6割に及ぶ西遠(せいえん)浄化センター擁する西遠処理区事業について、フランスの外資系企業ヴェオリアを代表とする企業連合は「浜松ウォーターシンフォニー株式会社」を設立し、2017年 10月30日付で浜松市との間で運営権契約を締結しました。
 仏ヴェオリア社は世界各国でコンセッション事業を含む3300カ所以上の下水処理場の運営実績を持つグローバル企業で、2018年4月1日より事業開始の予定となっています。
浜松市の西遠浄化センター
 今回のコンセッションは、処理場とポンプ場に運営権を設定し、民間事業者が20年間にわたり、維持管理と機械電気設備の改築更新などの事業を実施するというもので、市と合意すれば最長で25年まで延長することができます。
 企業連合が受け取る収入は、市の下水道条例に基づいて地区の市民が支払う料金である「使用料」に、一定の割合を乗じた「利用料金」です。利用料金の割合は、施設の運営や改築、維持管理などに必要な金額に基づいて自治体が設定することになりますが、今回の浜松市のケースでは、使用料の27%で公募されました。
 このほか企業連合は、新たな処理工程を導入することで、従来の下水道事業の収支の改善や環境負荷の低減などにつなげる附帯事業と、事業用地と施設を活用した独立採算の任意事業を行うこともできます。
 コンセッション導入に伴い、下水道料金の総額は変わりません。これまで通り、西遠処理区でも他の処理区でも料金総額は変わらず、支払い方法も変わりません。市が一括して徴収し、市民の手続きなどは一切不要。料金変更についても、議会の議決を経て条例で定める必要があるため、民間事業者が自由に料金を変更することはできません。
 また、移管される運営権の対価として、25億円が企業連合から浜松市へ支払われ、かつコンセッション期間20年間で、従来の事業費と比べ14.4%、金額にして約86億円のコストダウンが見込まれています。
 具体的には、ヴェオリア社の豊富な下水処理実績に基づくノウハウや技術を生かし、日々の運転や維持管理業務の効率化を実現するほか、同社グループが管理する世界各地の下水処理場との比較によるパフォーマンス評価と改善の実施に取り組むとのこと。
 一方、地元との連携として、下水道事業と浜松市特産のうなぎを組み合わせた養鰻パイロット事業や、下水道にまつわるふれあいイベントの開催などにも取り組むとのことです。
 コンセッション方式によるインフラ運営は、政府が掲げる成長戦略の柱の一つとなっています。こうした取り組みが日本中で広がって行くことを、前国土交通副大臣としても応援して参りたいと思いますし、少子高齢化の中、老朽化インフラの更新という重大な問題に喘ぐ自治体が、有力な可能性の一つとして取り組むことで、地域全体が活力を取り戻していくきっかけとなっていくことを、期待したいと思います。

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